【経済】新型肺炎が日本経済と安倍政権の「致命傷」になってしまう可能性

習近平主席が来日する4月までに鎮静化すれば御の字だが、ひょっとしたら、現在の中国国内の感染者数が15万人程度に達しているとすれば、事態を収拾できず、来日などしている場合ではなくなるかもしれない。

もし来日できるなら、この間の中国の情報隠蔽を世界に対して認めさせ、感染症における即時情報公開の原則について、世界中で徹底させるいい機会にしたらいい。

いずれにしても、新型肺炎により中国の経済活動は、確実に落ちる。武漢は事実上隔離され、工場の稼働も止まるので、重要なサプライチェーンが切れてしまう。春節は旅行、バーゲンの季節でもあるが、水を差されている。現地の観光業や食品業には直接的な痛手である。

中国のGDPのうち、消費は4割だ。このうち新型肺炎騒動で影響を受けるのが食品、交通、教育文化娯楽など5割程度だ。これらが1割減になると、GDPは2％低下する。

SARSの直撃を受けた2003年4-6月期の中国のGDP成長率は9.1％で、直前の1-3月期（11.1％）から２ポイントも落ち込んだ。米中貿易戦争の影響で、2019年のGDP成長率は6.1％にとどまっている。この数字でも実際より嵩上げしていると思われるが、さらに数字が落ちるのは間違いない。

今は2003年当時とは比較にならないほど、中国人の中国国内や海外の往来が盛んであるので、損失はもっと大きいだろう。感染者数はすでにSARSを超えている。３月の全国人民代表大会（全人代）で公表される2020年の成長率目標も、5％台、ひょっとしたら4％台にせざるを得なくなるかもしれない。

SARSの時とは影響力が違う
2020年の世界経済は「絶好調」とはいかないが、2019年よりはマシになるだろうと思われていた。米中貿易戦争や英国の欧州連合（EU）離脱（ブレグジット）、前年行われた米利上げの余波などにより、世界の成長率は2.9％だったが、2020年には3.3％になると国際通貨基金（IMF）は1月に予測していた。

しかし、国際通貨基金（IMF）のゲオルギエバ専務理事は、新型肺炎について「世界景気に短期的な減速をもたらす可能性がある」との懸念を表明し、主要中央銀行には「2020年中は金融緩和を維持すべきだ」と求めた。

2003年のSARSでは、前述の通り中国経済は落ち込んだが、それは1四半期だけで影響は短期的だった。しかも、世界経済への影響は0.1％にとどまった。

当時、世界の名目GDPにおける中国のシェアは4.3％（2003年）だったが、今や15.7％（2018年）となっており、影響力は4倍程度になっている。しかも今回はSARSの時のようにはすぐ事態が終息しそうにない。

解決に時間がかかること、中国が組み込まれているサプライチェーンが切断されることは、世界経済に悪影響をもたらすだろう。IMFでは、再び2020年の世界経済見通し3.3％を見直すことになる。中国の影響力が2003年時の4倍として、少なくとも0.4％引き下げ、2019年の2.9％より低い水準まで見直すかもしれない。

安倍政権にも致命傷になりうる
武漢には多くの日系企業が進出しているが、対中戦略の練り直しも必要だ。もちろん、日本政府も万全な対応が必要である。日本は、昨年10月の消費増税により、まさに経済が失速しかけている。昨年10月・11月の経済指標は全滅に近い形であり、2月17日に公表される10-12月期のGDP速報はマイナスになることがほぼ確実である。

これに対する補正予算が1月30日に成立したが、本コラムでも以前書いたように本来は昨年の臨時国会で行うべきもので、遅きに失した。経済政策はタイミングが重要なので、このままではさらなる補正も必要だったが、それに新型肺炎のリスクも加わった。

安倍政権の危機管理は、これまではまずまずだったが、今回の新型肺炎では前述のような閣議決定においても、うまくいっていない。それに経済対策でも後手に回ると、政権の致命傷になるおそれもある。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70203